「芸人」が「遊芸稼ぎ人」と呼ばれていた時代のお話。 講釈師の不動坊火焔が旅先で客死、若後家のお滝さんを金貸しの利吉が嫁に貰うことになった。 嬉しくてたまらない利吉、風呂屋でのろけ出す。 「この長屋には、あんたを入れてやもめが四人いてはりますがあんたをのけた他の三人、ろくな方は一人としていててやもません。 漉き直し屋の徳さんは鰐革の瓢箪みたいな顔をしてます。 髢鹿子活け洗いのゆぅさんは鹿子の裏みたいな顔で、東西屋の神さんは商売柄とはいいながら大きな太鼓を腹へ掛けて町中ドンガン、ドンガンやってはりますが家の中はひーふるひーふる、節季の払いもさっぱりどろかいちゃんぽんでおますわいな」 と、やりだし、とうとう湯の中へはまりこんでしまう。 それを風呂屋の中で聴いていたのが漉き直し屋の徳さん、怒ったの怒らんの、長屋へ帰ってやもめ仲間を呼びだした。仕返しに二人の初夜を邪魔しようというのだ。 隣裏に住む講釈師、歌留多道斎を仲間に引き込み、屋根の天窓から不動坊の偽幽霊を出した。 利吉から金を巻き上げたまではよかったが幽霊を引っ張り上げる時に、吊り下げてたサラシが切れて幽霊こと道斎は長屋の床にドスーン。 「お前誰や?」 「隣裏に住んでおります歌留多道斎という講釈師、ちと婚礼の晩の余興に」 「何が余興や! お前みたいなもんは、講釈師やのうて横着師いうんや!」 「いえ、幽霊稼ぎ人でおます」
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